発電機が防災品に仲間入り

関東大震災が起きた9月1日は「防災の日」。今年も全国各地で防災イベントが数々開催される。アイデアを凝らした防災グッズは年々増えているが、今年新たに仲間入りしたのが、ホンダが5月に発売した発電機「エネポ」だ。

 停電が多い海外では、ガレージの隅に発電機がある光景は珍しくない。ガソリンエンジンを搭載した小型のものが一般的で、非常用電源として使うほか、芝刈り機やDIY用の電動工具を動かすのにも使える。だが、日本で発電機の認知度はすこぶる低い。工事現場の照明や縁日の出店の脇に置いてあるのを見かけるのがせいぜい。発電機のある家庭はごくわずかだろう。
エネポはこれまでの発電機のイメージを覆すべくホンダが投入した戦略商品だ。今まで発電機を使ったことがないユーザーをターゲットに据え、デザインや使い勝手にこだわった。

 最大の特徴はカセットガスを燃料に使うこと。カセットガスは購入しやすいうえ、ガソリンの難点であるにおいや液ダレの心配もない。

 発電機としては珍しくテレビCMも放映。女性がキャリーバッグのように白色の発電機を引っ張る姿をごらんになった方も多いだろう。白い本体とアルミのハンドルは家電を彷彿させる。

 操作は至って簡単。本体には操作順に大きく数字が描かれている。その1。まず上部のフタを開けてカセットガス2本を装着する。その2。スイッチを運転に回す。そして最後に、グリップを思いっきり引っ張れば、エンジンが始動して発電し始める。あとは本体脇にあるコンセントに挿せばよい。カセットガス2本で、900ボルトアンペアなら1.1時間、エンジンの回転数を自動制御する「エコスロットルモード」なら最大2.2時間発電できる。


ターゲットはミニバンユーザー

 これまで発電機の販路は、農機を扱う特約店やホームセンターなどだった。エネポは初めて、クルマの販売店「ホンダカーズ」の店頭でも販売している。「『フリード』などミニバンの購入を検討するユーザーがエネポのターゲット」(ホンダ汎用営業部事業企画ブロックの石渡潤チーフ)だからだ。

 非常用電源のほか、「アウトドアで写真をすぐにウェブサイトにアップしたい」「オートキャンプ場で炊飯器を使いたい」というニーズにも応える。実売価格は10万円程度と安くはないが、販売は好調。当初は年間9000台を見込んでいたが、発売3カ月で7000台以上を出荷した。

 カセットガスを使う発電機は、三菱重工業の「MGC900GB」もある。発売は8年前だが、今年はエネポの登場もあって例年以上に売れているという。

 カセットガスは、1995年の阪神・淡路大震災を契機に身近な非常用燃料として定着した。公共インフラが絶たれた被災地で、カセットガスコンロが調理などに大活躍したからだ。

 実際、カセットガスの売上本数は右肩上がり。日本ガス石油機器工業会によれば、96年の出荷本数は9700万本。それが2009年は1億4600万本と約1.5倍に伸びた。エネポの発電技術自体に目新しさはない。だがホンダは、カセットガスとデザインで新風を吹き込んだ。日本で個人向け発電機市場が開花するか注目だ。

日経ビジネス 2010年8月30日号68ページより

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